お箏を弾かない人の前で調弦を取っていると 「絶対音感ですか?」 と聞かれることがよくあります。
初心者に調弦を教えようとすると、 「絶対音感がないので…」 と言う人もたまに見かけます。
ある種の信仰になっているようですね。

絶対音感…ある特定の高さの音を音名で認識する能力です。
世間一般、特にメディアにおいては、 精度に関係なく特定の音を聞いて「ド」とか「レ」とか当てられれば 「絶対音感」があると見なすのが現状のようです。

私は全くありません。
使うのは音と音の音程関係を把握する「相対音感」です。
例えば私の場合、ニュースのジングルの出だしの音は、 その前にしゃべっているアナウンサーの声の高さを基準に予想し、口ずさむことはできるけど、 その音が「ド」なのか「レ」なのか分からないし、 アナウンサーが喋らなかったり別の人だと、基準がなくなるので口ずさむこともできません。
「絶対音感」がある人は、自分の中にある基準により、音名も含めて当てられます。
という違いになりますかね。
私は実際の演奏では100%相対音感を使うので、困ったことは一度もありません。
一方、周りを見ていると、訓練で身に付いた「絶対音感」の精度が低いことが少なくありません。
私たちは演奏や調弦で5cent(平均律の単位を使うのもなんですが)も差があれば、音がずれていると感じます。
「絶対音感」を持っている人の多くは一音の幅が広く、±約30centという人もざらです。
これらの人が箏を習い始めると、最初は自分の持っている音感を頼りに調弦をとろうとするので、 近似値にはなるけれど、音階の流れやハーモニーとしては相当悲惨なことになります。
中には自分の持っている音感が障害になるのか、相対音感を使いこなせないのか、 いつまでたっても調弦の精度が低い人もいて、その様子を見ていると、 「絶対音感」てなんの役に立つのだろうと疑問に感じます。
すべての音を正確に把握する、精度の高い絶対音感の持ち主もいますが、 クラシックの古楽やアジアの民族音楽のようにピッチも音律も異なる音楽にまで対応できる人は、極少数のようです。
そうなると、ますます何の役に立つのだろうと疑問に思ってしまいます。

また、絶対音感の有無に拘わらず、耳の良い人なら、元の調より一音高く転調しただけで違和感を覚えます。
脅迫観念のように「絶対音感」がないと音楽ができないと思っている人がいたら、 そんなことないですよ、と言ってあげたいです。